よくあるインプラント治療の失敗と原因

歯を失った多くの方が、インプラント治療で快適なお口の中の環境を取り戻す恩恵を受けています。その反面、インプラント治療によるトラブルや失敗も増えており、死亡事故が起きているのもまた事実です。では、具体的にどのようなトラブルが生じ、そうならないためにはどうしたらいいのでしょうか。

多く寄せられているトラブルの種類としては、以下のようなものが挙げられます。

手術後、インプラントや人工の歯(上部構造)がとれる
手術後に腫れや麻痺、違和感がある
インプラントの周囲で炎症が起きる

インプラントは、外科手術をするデリケートな治療法です。しかし、大学の教育課程においてインプラント教育は十分とは言えず、歯科医師であれば誰でも簡単にインプラント治療を始めることができるのが現状です。専門知識や経験が未熟なまま安易に治療を行なったために、インプラント手術時に下顎の神経を傷つけたり、神経の近くに埋め込んで知覚異常が生じたりなどのトラブルが発生し、訴訟問題に発展したケースもあります。

実際に、医療機関で広く認識されている課題として

歯科医師の知識や技術の不足
事前説明などの、患者とのコミュニケーションが十分ではない
難しい状況での無理な治療

などが挙げられています。

外科手術を伴うインプラント治療の「痛み」や「怖さ」は大きなストレスとなります。万が一のことが起きる前に、できるだけ患者様ご自身でも情報を集めインプラント治療の正確な知識を得ることで、事前に予防し不安を取り除くことができます。そして、これが長く快適な口腔環境を保つポイントにもなります。

では、具体的にインプラントの失敗とはどのようなものがあるのでしょうか。

インプラントが骨に固定(骨結合)しないケース

インプラントは埋め込んだ後、時間をかけて徐々に骨結合していきます。
一定の期間を経て天然の歯の根と同じように被せ物を支えられるようになりますが、骨結合せずに抜け落ちることがあります。
骨の質は、個人差や部位によって様々です。
歯科医師が、それぞれの場合に応じて適切な治療ができれば、ある程度は防げるケースでもあります。

インプラントとの接触で、神経・血管が損傷するケース

手術前のCT検査での診断が十分ではない場合や、歯科医師の技量が足りない場合、インプラントが神経や血管に接触することがあります。
神経を損傷すると麻痺や感覚異常が合併症として現れます。また、血管の損傷は大量出血につながります。
これらの損傷は、骨や神経などの構造をしっかりと把握していない時によく起こります。

インプラントが骨を突き抜け、損傷や炎症を起こすケース

上顎の手術をする際に十分に骨の量などを把握していないと、インプラントが骨を突き抜けその上にある粘膜の損傷や炎症の原因となります。
さらに粘膜の先の上顎洞と呼ばれる所まで達すると、インプラントの上顎洞内への脱落や上顎洞での感染が起きることもあります。

インプラントの周りの歯ぐきが腫れるケース

天然の歯と同じようにインプラントでもプラーク(細菌のかたまり)がたまり、歯ぐきに炎症(歯肉炎)が起きることがあります。
進行した歯肉炎はインプラントの周囲の骨の減少(骨吸収)を起こし、インプラント脱落の原因となります。
常にブラッシングなど清潔な環境を保ち、メンテナンスを受けていると炎症は起こりにくいですが、体調によっては生体防御のバランスが崩れて炎症が起きることもあります。

インプラントが歯ぐきの外に出るケース

インプラントが十分骨結合していても、埋め込んであるインプラントの一部が歯ぐきから出てしまうことがあります。 インプラントは一定の厚みの健康な骨で支えられている必要があり、骨が不足したまま治療を行った際に起きるケースです。

インプラントの被せ物が頻繁に外れるケース

人工の歯である被せ物が頻繁に外れてしまうのは、土台になるインプラントに問題がある場合、もしくはインプラント部分の噛み合わせに問題がある場合などに起こります。
全体の噛み合わせを考えずに治療を行うと、インプラント部分に過度の噛み合せの力がかかり被せ物が緩んで外れることがあります。

インプラントの被せ物でうまく噛めないケース

インプラント自体はうまく治療ができたように思える場合でも、どうしてもうまく噛めないことがあります。
歯を失う原因のほとんどは、歯周病や歯根破折、咬合の問題など複合的なものです。
これらの根本的な原因を解決しなかった時に起きるケースで、全体のバランス、噛み合わせまでも含めた総合的な治療計画が重要です。

以上が主なインプラントの失敗ですが、これらは十分な術前の診査・診断と治療の設計、また定期的な検診とメンテナンスでほとんどのケースを予防できます。
インプラントの事故を防ぐためにも、慎重に確実な歯科医師、歯科医院を選ぶことが大切だと言えます。

歯科医師、歯科医院選びでのチェックすべきポイント

コミュニケーションが十分にとれる歯科医師であるか
検査結果や治療計画、治療費の説明が明確であるか
インプラントの長年の経験や豊富な治療実績があるか
アフターケアと保証制度がしっかりしているか
インプラント治療の知識と技術の向上のために、学会やスタディーグループに参加しているか

患者様のポイント

自分なりに、インプラント治療についての知識をある程度つけること
歯科医師としっかりコミュニケーションをとり、自分の意思を伝える努力をすること
治療後はメンテナンス(定期健診)を受け、お口の中も衛生も保つこと