ケアについて
フロスを使用する前に(フロスの使用について-1)
糸楊枝(フロス)の正しい使い方を知っていますか?
フロスは、歯の隣接面に付着したプラーク(歯垢)を取るもので、食べかすを取るものではありません。
また、歯垢が最も付着している時に利用することが重要で、起床直後が効果的です(フロスやブラシで取れるのが歯垢(=プラーク)です。歯垢の取り残しがあると、やがて石のように硬くなって歯石となり、口臭や歯周病の原因となるのです)。一方、食後すぐは口の中がほぼ無菌状態なので歯垢はありません。したがって、フロスを使う必要はないのです。
大事なことは、食後はプラークコントロールではなくてpHコントロールが必要ということです。口腔内は、食後すぐは無菌状態ですがpHが低下しやすく、pHが低下すると虫歯菌が急に活動状態となり、やがては歯垢(プラーク)を作ります。
食後はブラッシングよりも、低下した唾液のpHをいかに早く元に戻すかが重要となります。これには唾液をたくさん出してpHを中和させることが効果的であり、逆にうがいはさらにpHを下げさせ、しかも唾液も出にくくなるため、間違った対処方法だといえます。
なお、フロスは歯石のない状態で行わないと効果はありませんし、歯石となってしまったらフロスで取り除くことはできません。歯医者で定期的に歯石除去をすることが大切です。
フロスを使用する時の注意(フロスの使用について-2)
歯並びに問題のない健康な人の場合、歯と歯がお互いぴったりとくっついていることはありません。必ず歯と歯の間には隙間が存在します。これは霊長類間隙の名残で、特に小さな子どもは見た目にも隙間があります。
成人の健全な歯並びの場合も、50ミクロン~70ミクロンというわずかながら適切な隙間が存在します。従って、デンタルフロスはこの健康的な隙間に無理なく通るように設計されています。
しかしながら日本人(特に若い人)には、すべての歯並びが完璧な人はほとんどおらず、特に適正な歯の間隔(隙間)がない人が大半です。歯並びが少しでも悪い部分は、まったく隙間がありません。
食生活習慣の悪化による退化現象
歯並びの悪さは食生活習慣の悪化が引き起こした退化現象です。フロスを使用したときに物が通過する圧迫感を感じたら、それは危険信号。無理やりフロスを通した瞬間に歯は圧迫され、側方から無理な力を受けると人為的に揺さぶられることになり、歯は簡単に移動してしまうのです。これを繰り返せば歯に大きなダメージをボディブローのように与え続けることとなり、その結果、歯並びはさらに悪くなると考えられます。また、歯周病が進行してしまう可能性もあるのです。
従って、少しでも圧迫感を感じるならば、その部分は決してフロスを通してはいけません。連用するとさまざまな問題が生じる可能性が考えられます。
フロスを使用してはいけない場合(フロスの使用について-3)
食後のフロスは一般的となっていますが、果たして効果はあるのでしょうか。
前段でも述べたように、歯垢なら一番ついている起床直後に除去しないといけないし、食後すぐは細菌学的には一番クリーン(無菌)な状態です。
仮に歯の隙間に食べかすが残った状態でそのままフロスを通すと、食べかすを歯茎側へ押し込むこととなり、歯茎を圧迫し傷をつけ、出血が起こりやすくなるのです。
どうしても食べかすを取り除きたい場合は、ピック(日本では爪楊枝)が最適です。ピックは歯垢を取るものではなく食べかすを取る専用道具で、歯の隙間を広げることなく取り除け、歯茎を損傷させることもありません。 どうしても、爪楊枝を使用するのが嫌な人は、ブラシに水をつけ、毛束一本一本を爪楊枝に見立て、横ではなく縦に磨く要領でそっと動かしてください。その後軽くうがいしてから、水を飲みましょう(うがいは唾液を失い口が乾燥しやすくなるため、少し水を飲むことで唾液の分泌を復活させます)。
アメリカにはカラフルな使い捨てのプラスティック製ピックがあります。イタリアのローマのカフェには木を適用に切ったピックが置いてあり、イギリスの貴族はゴールドでできたピックを持ち歩くなど、世界中にはさまざまなものがあります。ケニアのマサイ族は、松の葉のような草のとげをピック代わりにしていました。ちなみに、野生のカバは常に爪楊枝みたいなくちばしを持つ鳥を背中に飼って(共生して)いて、食後は口をあけると、その鳥が常に食べかすを取ってくれます。カバは歯科衛生士を常に背中に乗せている(?)といったところでしょうか。さらに野生のサルは、歯に物が詰まると木の枝に歯をこすりつけて取っています。
日本には、竹の爪楊枝が出回っていますね。世界一使いやすく芸術的な加工がされており、特に高級日本料理店の爪楊枝は、使い捨てにするにはもったいないくらいの品質です。
フロスを使用するタイミング
無理なくフロスが通る部分は、フロスを使用しても良い部分です。 使用のタイミングは、プラークコントロールと同じで、就寝前と起床直後の歯垢がたくさんあるときです。
睡眠時は口の細菌が増え続けるので、寝る前にも念のためにやっておくといいでしょう。 フロスを通す時に抵抗を感じた場合はすぐにやめましょう。
フロスやブラッシングはとても重要ですが、意味のあるケア方法と正しい使用方法で行わないと、かえって歯を悪くしてしまいます。正しく使ってこそ有効なのです。
当院では開業当初から、正しい口腔内ケア指導を心掛けています。口腔生理機能や微生物学についての正しい知識を広め、常に手軽で有効的な衛生方法を自身で考えられるような口腔衛生指導を行っています。
80歳になったときに通院ばかりする毎日を送らないためにも、自分自身でベストな口腔状態を保てるような正しい知識をもちましょう。
口臭対策トレーニング
自宅で簡単にできる口臭対策トレーニング
口臭が不安で無口になったり、安静時など、口腔内の生理機能が長い間停止してしまっている場合は、自覚的に口臭や鼻臭を感じやすくなります。また、舌の機能の低下(慢性的な非病的白苔)や口腔中の不快を感じて長年悩んでいる人も多いと聞きます。そこで、自宅で簡単にできる口臭対策トレーニングを紹介します。
1.舌先を口の中で上下左右に36回動かし、唾液をためる。
2.唾液を口の中ですすいだ後に、3回に分けて飲む。
これを、口臭を感じるときに行うと改善されるでしょう。そして、一日に何回か意識的に行うことで舌を磨くことなくきれいに保てます。訓練的に続けると、非病的な白苔はなくなります。
さらなる改善を求める患者様には、無臭化に必要な安静時唾液流を快適に確保するトレーニングがあります。好きな音楽を聴きながら行う、太極拳、口腔生理機能訓練、アロマテラピーを合体させたリラックス療法で、舌機能の回復のためのトレーニングも兼ねています。詳しくは当院院長にお尋ねください。
口臭抑制製品の有効な使用法
口臭抑制製品は使い方によっては大きな効果を発揮します。
例えば、生理的口臭が気になったときに使用することで精神的な安定が得られると、唾液の分泌が増進され、口臭が緩和されるということがあります。
一方、口臭抑制製品を使用しても精神的緊張が取れず、唾液の分泌も改善されないような場合には、それ以上の効果は期待できません。使用をやめてうがいも控え、水分をしっかり摂りましょう。
口臭抑制製品は便利ですが、そればかりに頼っていては根本的な解決にはなりません。歯科医院で口臭治療を受けることをお勧めします。